小説を読み始めるにあたり「こころ」をチョイスしたのはどう考えても間違っていた

活字には常に触れているんですけども、最近自己啓発本しか読んでないんですよね。

ま、何者かになりたいと思いがちの20代男子としては健全なのかもしれないですけどもなんかもったいねえなという思いが最近大きくなりまして。やっぱり小説に触れるのも大事じゃね?たくさん読んだ方が良いんじゃね?と。

というわけで、小説を読み始めました。

ファーストチョイスは夏目漱石の「こころ」。

話の概要を簡単にまとめると(ネタバレなんで気をつけて下さい)こんな感じです。

 

学生の「私」は鎌倉で出会った「先生」と知り合い、次第に家にまで行くほどの仲に。「先生」の奥さんとも仲良くなるほど、深い交流になっていったが「先生」はどこか厭世的。過去に何か暗いことがあったようだが、「私」にはそのことを打ち明けない。

そんな中、「私」は父親が危篤ということで地元に帰ることに。そして父親の世話をしていると「先生」から手紙が届く。手紙の内容は「この手紙が届く頃にはもうこの世にはいない」という衝撃的な内容とともに「先生」の過去が語られていた・・・。

 

すごいざっくりしてますけども、許してつかあさい。

400ページ弱あるんでね。本気で書いたら普段の文字量の4倍くらい余裕でいっちゃう。

で、読んだ感想としては

 

ウアーッ!先生!先生ッ!ウアーッ!!

 

って感じですね。すみません、感情が揺さぶられすぎてまとめるのは無理でしたわ。

「先生」の手紙の中で語られている内容っていうのは「先生」と友人「K」二人が「お嬢さん」(今の「先生」の奥さん)に同時に惚れちゃって、それで先生が抜け駆けして「K」が自殺してしまって、この出来事を含めて自分は人生を楽しむ資格がないから死ぬっていうような感じなんですけども、すんごい共感しちゃうんですよね。

人によって見方は当然違うんでしょうけど、俺は特に「先生」。酒酌み交わしたいまじで。

「お嬢さん」には「先生」の方が先に惚れてて、告白しようかしまいか悩んでる最中に、「K」から「お嬢さん」に惚れていることを告げられて、「K」に「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」という「K」自身が言った台詞で諦めさせようとしたり、どうしても自分のものにしたいからお嬢さんの母親に「お嬢さんを自分に下さい」と直談判したりと必死に行動するんだけれどもそのあとに結局は自己嫌悪に陥るところあたりが人間臭さに溢れ過ぎていて。己のエゴと良心の戦いみたいなもんがありありと描かれていて苦しくなります。ちなみに「先生」の過去が赤裸々に綴られたこのおてまみ、「こころ」の半分を占めており、200ページ近くもある超大作です。どんだけ思い溢れてたんだよ先生。途中で自分の文才に気づけよ先生。超読み応えあったぞ。死ぬなよ。

 

あとですねパンチラインが多い。一番有名なのはもちろん「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」でしょうけど、他にも

 

「私にいわせると、彼は我慢と忍耐の区別を了解していないように思われたのです。」

「つまり私は極めて高尚な愛の理論家だったのです。同時にもっとも迂遠な愛の実際家だったのです。」

「彼のお嬢さんに対する切ない恋を打ち明けられた時の私を想像してみて下さい。私は彼の魔法棒のために一度化石にされたようなものです。」

 

ライフハック的なものからスーパー秀逸な心理描写まで金言の数々です。いやあ、これは文豪。マジ文豪。夏目漱石ヤバイ。脳みそのどの部分こねくり回したらこんなの思いつくんだっていう文章の連続です。

けどもこの文豪、最後にやってくれました。「こころ」の締めの文をご覧下さい。手紙の締めじゃなくてこの小説の締めの文です。

 

「私は私の過去を善悪ともに他(ひと)の参考に供するつもりです。しかし妻だけはたった一人の例外だと承知して下さい。私は妻には何も知らせたくないのです。妻が己れの過去に対してもつ記憶を、なるべく純白に保存しておいてやりたいのが私の唯一の希望なのですから、私が死んだ後でも、妻が生きている以上は、あなた限りに打ち明けられた私の秘密として、すべてを腹の中にしまっておいて下さい。」

 

ッハアーーーーー!!??

お、おわりぃーーーー!!??

や、俺が起承転結を気にし過ぎなだけかもしれませんけど、「私」の反応とか病中の「私」の父親のその後とか諸々気になるわけですよ。ぶん投げ。起承転結の転まで。起承転。崎陽軒みたい。さっきも書きましたけど、手紙がめちゃくちゃ長いんで、「おお、終わった。すごかった。みんなその後どうなるのかな・・・」と思ってページをめくると「完」。そりゃまあ吉本新喜劇ばりにずっこけるってもんです。しかし、冷静に考えてみるとそんな反応になるくらい入り込んでたってことですね。まあ他人事として読めない内容でしたからね。刺さりました、本当に。

 

いやぁ、しかしむちゃくちゃに感情を振り回されましたねこの本には。疲れましたよ。読後はもうどーしようもない気持ちになって奇声発して家で暴れてました。ヤベーやつ。その後なぜか頑張ろうという思いが湧きました。俺は「先生」の思いを背負って生きる!と。うわ、こっちの方がやばいじゃん。怖怖。

終わり方をあんな風にしたのはこれが狙いか漱石。読者が自分を「私」自身と捉えるように図ったのか。この天才め。完全にやられたわ。

ま、というわけで最初はいろんな名著に触れて教養深めるか〜くらいな安易な考えで読み出しだんですけども、その目論見は完全に失敗しました。暫くは「こころ」に想いを馳せます。