ウメハラVSときどin獣道弐③~神に挑んだ世界王者~

前回までのあらすじ

格ゲー文化そのもの、化身とも称されるウメハラ。そしてEvolution 2017を制した現世界王者ときど。日本の格ゲー界を代表する両者が獣道弐にて激突した。

勝負は見るものを驚愕させた新戦法によってウメハラ優勢に進む。ときどはこの格ゲー界の神にどこまで食らいついていけるのか。プライドをかけた両者の戦いは後半戦へ・・・。

 

ウメハラが7本先取、ときどが3本先取で迎えた後半戦。

試合はウメハラが終始優勢のまま折り返しを迎えた。

10本先取りは長期戦のため計10試合が終了するとインタバールが挟まれる。

解説者であるふ〜どの「嬉しいけど悲しい」というコメントがその場に居あわせた者、ネット中継で観戦している者全員の思いを代弁していた。

 

そして十分に休息をとった両者が再びゲーム画面に向き合う。

劣勢ではあるがときどの表情は依然として鋭く、笑みすら浮かんでいた。

まだやれる。そう確信している表情だった。

 

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対して優勢のウメハラは胸に手を当て深呼吸するなどどこか不安げな表情を浮かべていた。

 

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両者の先取数を考えると真逆になりそうなものだが・・・これは当人同士にしか分かり得ないものなのだろう。

 

そして迎えた後半戦、11試合目。

後半戦の流れを作る重要な一戦である。

ときどがここで踏みとどまるか、ウメハラが優勢なまま試合を進めるか。

両者の立ち上がりは互いに出方を窺う慎重なものだった。

少しでも隙を見せればやられるという極限の読み合いが続く。

その読み合いを先に破ったのはウメハラだった。

ガイルの必殺技である飛び道具「ソニックブーム」を連発し、ときど豪鬼を追い込む。

そしてたまらずときど豪鬼がジャンプ回避をすると対空技「サマーソルトキック」を叩き込む。

前半戦に見せたレバーを後ろに入れないという新戦法とは打って変わって、セオリー通りの戦法により11試合目をウメハラが制した。

その勢いのまま12試合目も制してウメハラが9本先取、ときどが3本先取。

ウメハラがリーチをかける。

 

敗北まで後一本。窮地に追い込まれたときど。しかしここでときど豪鬼が息を吹き返す。

ウメハラガイルの「ソニックブーム」の嵐をくぐり抜け、コンボを繋げてウメハラガイルの体力を瞬く間に削っていく。

そんな徹底的に攻め抜くときど豪鬼本来のプレースタイルにより、ときどが2本を返す。

ウメハラ9本、ときど5本。

 

ここからときどの反撃なるか。観客にそう思わせるほどの猛攻だった。

しかし15試合目にウメハラガイルの下がらないという新戦法がまたもや猛威を振るい、頂上決戦の雌雄は決した。

 

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試合結果はウメハラ10本、ときど5本。

先述した通り、10本先取りは実力差が露見する試合形式である。

ウメハラはダブルスコアをつけ、Evolutuion 2017覇者にその差をまざまざと見せつけた。誰の目から見ても圧勝だった。

 

やはり神は神だった・・・。この試合を見届けた者は皆ウメハラに対してそう畏敬の念を覚えたに違いない。そして同時に健闘したときどへの労いの念も。

そんな様々な思いを受けた両者がインタビューへと向かう。

まずインタビューを受けたのはときど。

 

「そうですね・・・ゲームの中くらいでは勝ちたかったんですけど・・・また出直してきます。」

 

振り絞るようにそれだけを発し、うつむく。

その目には涙が溢れていた。

無念。その思いから溢れ出た涙だった。

対してウメハラのインタビュー。

 

「ゲーム以外全部勝ってると思うんですけど」

 

第一声でこう嘯きながらも、このように続ける。

 

「ときどが去年、一昨年とすごい活躍していて、自分もやったるぞという気分になった」

格闘ゲームに対する気持ちがまっすぐあることをときどにわかってもらうチャンスだと思った」

 

試合前のインタビューの挑発的な発言とは正反対の内容。

号泣するときどの姿を見て正直な思いを吐露しようと思ったかは定かではないが、ときどの存在を認めていることがよく分かる発言である。

 

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かくして、格ゲー界の世紀の一戦「獣道弐」はウメハラの勝利で幕を閉じた。

 

「ゲームの中くらいでは勝ちたかった」

 

この発言はときどの思いが本当に凝縮された言葉だと思う。

これまで何度も梅原に対して「神」「格ゲー界の文化そのもの」といった表現をしてきたが、ウメハラという存在は格ゲー界において絶対である。

ただ単純に強いというだけではない。ファン・プレーヤが彼に対し抱く崇拝の念というのはウメハラ以外のプレーヤーでは存在し得ないものである。

はっきり言って、もはや戦績では彼の特別さをはかるバロメーターにはならない。

どれほどの大会で優勝しようが、どれほどの賞金を獲得しようが、彼のカリスマ性を上回ることは敵わない。

Evolution 2017覇者という立場になり、ときどはそれを今まで以上に身をもって体感したのであろう。

だからこそ、10本先取りという過酷なルールでウメハラを破り、せめて実力は自分の方が上であることを証明したかったのだと思う。

そして試合前のインタビューで「差がどれくらいあるか確かめてみたい」と語った後に、「もちろん勝つつもりでやります」と述べたことから、今の自分であればウメハラを上回ることができるという自信を持っていたと推察される。

 

しかし、10対5という大差でその思いは完全に打ち砕かれてしまった。

ときどが味わった敗北感、無念の情は果たしてどれほどのものであっただろう。

その無念さが「ゲームの中くらい・・・」という発言と人目もはばからず流した涙に表れていた。

そしてその姿は観戦したものの心を打ち、試合の感想はときどへの労いの言葉で溢れた。

 

日本のe-sportsに対する評価はまだまだ低い。いつ出来上がった価値観かはわからないが「所詮ゲーム」という考え方が根強いように感じる。

しかし、e-sportsはこれほどまでに熱く、人の心を動かすものなのだ。

ときどはこの試合を糧にもっともっと、強くなることだろう。そしてもっともっと我々を熱狂させてくれることだろう。

これからの益々のときどの活躍を祈って。

頑張れときど!